人を扱う業務は、AIが最も効きにくい領域です。
総務省の白書データによると、人事は未導入35.4%。そして活用している企業でも、効果を感じている割合は23.5%——議事録・メール作成補助(72.3%)の3分の1以下で、全業務類型のなかでも下から2番目です。
人材紹介の現場感覚と、この数字はおそらく一致します。
この記事の要点
- 人事の効果実感は23.5%(下から2番目)
- 効くのは情報を整える仕事だけ
- 候補者情報の扱いに線を引く必要がある
数字で見る現在地
総務省「令和8年版 情報通信白書」データ集より、人事の状況です。
| 状態 | 割合 |
|---|---|
| 業務プロセスがAI中心に変更されている | 5.6% |
| 部署内の特定業務で活用している | 20.3% |
| 従業員が個人作業の効率化で活用している | 15.1% |
| 未導入 | 35.4% |
| わからない | 19.7% |
| 社内に該当業務はない | 3.8% |
効果を感じる割合は23.5%。 経営(20.1%)に次いで低い水準です。
⚠️ 白書の「人事」は企業内の人事部門であり、人材紹介業を取り出した統計ではありません。以下は、この数値を手がかりに人材紹介の業務を整理したものです。
業務を2つに分ける
| 内容 | AIの入り方 | |
|---|---|---|
| 情報を整える仕事 | 求人票の整理、職務経歴書の読み込み、案件の要約、日程調整、報告 | 入る |
| 人を動かす仕事 | 見極め、動機づけ、条件交渉、辞退の引き止め、意思決定の支援 | ほぼ入らない |
時間で見ると、前者の比率は小さくありません。 求人票を読み込む、経歴を整理する、企業への推薦文を書く、面接日程を調整する——ここは作業です。
効いているのは、この部分だけです。
情報を整える仕事で効くこと
| 業務 | 何をさせるか |
|---|---|
| 求人票の要点整理 | 長い求人票から、必須要件と歓迎要件を分けて抽出する |
| 求人の言い換え | 企業側の表現を、候補者に伝わる言葉に |
| 推薦文のたたき台 | 整理した経歴から、推薦のドラフト(事実は自分で確認) |
| 案件比較の表作成 | 複数案件を、候補者の判断軸で並べる |
| 面談メモの整形 | 話した内容を、社内共有できる形に |
| 求人票の欠落チェック | 応募判断に必要な情報が書かれているかの指摘 |
最後の1つが実は有用です。 企業から預かった求人票に何が足りないかを指摘させると、企業へのヒアリング項目がそのまま出てきます。求人票側の作り方はAIで求人票を書く方法にまとめています。
人を動かす仕事が残る理由
この仕事の中心にあるのは、言語化されていない情報です。
- 候補者が本当に転職したい理由(面談で最初に言うことと違うことが多い)
- 迷っている理由が、年収なのか、家族なのか、自信のなさなのか
- 企業側が本当に採りたい人物像(求人票に書かれていない部分)
- 内定辞退の兆候——返信が遅くなる、質問が減る
これらは、その場のやり取りから読み取る情報です。 事前に文章化できないため、AIに渡す形になりません。
効果実感が23.5%にとどまっているのは、この職種の中心業務が対象外だからだと考えられます。
PR・おすすめstrategy career自分らしく働けるエンジニア転職エージェント。公式サイトを見る🔍 編集部の本音 「AIがマッチングを自動化する」という話は昔からありますが、数字を見る限り、まだそうなっていません。 理由ははっきりしていて、マッチングに必要な情報の大半が、書類に書かれていないからです。書かれていることだけで判断できるなら、そもそも人が介在する必要がない。書かれていないことを聞き出す仕事は、当面残ると思います。
候補者情報の扱い
この職種は、最も機微な個人情報を扱います。
| 情報 | 扱い |
|---|---|
| 職務経歴書をそのまま入力 | しない(氏名・所属・学歴・年収が含まれます) |
| 経歴の構造だけ(業種・職種・年数) | 社内ルールの範囲で扱える場合がある |
| 面談で聞いた個人的な事情(健康、家庭、人間関係) | 入力しない |
| 企業側の非公開情報(採用背景、内部事情) | 入力しない |
| 公開されている求人票 | 比較的扱いやすい |
判断の基準は「本人がそれを知ったとき、どう思うか」です。
実務的な回避策があります。 経歴を整理させたい場合、氏名・企業名・学校名を伏せた要約を自分で作ってから渡す。「Web系企業で開発3年、SIerで5年、直近はチームリード」であれば、構造は保ったまま個人を特定できません。
各社の学習設定は社内情報を学習させない設定で扱っています。
候補者の評価をAIにさせない
選考に関わる判断を自動化すると、説明できなくなります。
人材紹介の仕事では、**「なぜこの人を推薦したのか」「なぜこの案件を勧めたのか」**を、候補者にも企業にも説明する必要があります。
AIが出したスコアを根拠にすると、この説明が成立しません。
- 何を評価したのかが分からない
- 候補者に説明できない
- 企業から理由を問われても答えられない
- 誤りがあったときに、どこが誤っていたのか追えない
AIは「整理」まで。判断と説明は人が持つ。 ここは、効率の問題ではなく職業上の責任の問題になります。
何を身につけるか
1つ目は、聞き出す力です。 書類に書かれていない情報を引き出す部分は、AIでは代替されません。むしろ、書類の整理が速くなるほど、面談に使える時間が増えます。
2つ目は、自分の判断基準を言葉にすることです。 「この経歴なら、この企業に合う」という判断の根拠を説明できる人は、候補者にも企業にも信頼されます。
3つ目は、AIの出力を疑うことです。 推薦文のたたき台に、経歴にない実績が混じることがあります。事実は必ず本人の書類と突き合わせてください。
学び方の順序は生成AI独学ロードマップ、他の職種での変化は職種別・AIで変わる仕事まとめにまとめています。
FAQ
Q. 人材紹介の仕事はAIでなくなりますか?
A. 数字を見る限り、その段階ではありません。 人事は未導入35.4%、効果を感じる割合23.5%で、全業務類型のなかでも低い水準です。効いているのは求人票の整理や書類作成などの情報整理で、見極めと関係構築は残っています。
Q. なぜ人を扱う仕事ではAIが効きにくいのですか?
A. 判断に必要な情報の大半が、書類に書かれていないためです。 転職の本当の理由、迷っている理由、企業が本当に採りたい人物像——これらは面談のやり取りから読み取る情報で、事前に文章化できません。
Q. 職務経歴書をAIに読ませてもいいですか?
A. そのままの入力は避けてください。 氏名・企業名・学歴・年収が含まれます。氏名や企業名を伏せた要約を自分で作ってから渡す方法なら、経歴の構造を保ったまま整理させられます。社内規程がある場合はそれが優先します。
Q. AIで候補者をスコアリングしてもいいですか?
A. 推薦の根拠として使うことはおすすめしません。 「なぜこの人を推薦したのか」を候補者にも企業にも説明する必要があり、AIのスコアではその説明が成立しないためです。
Q. 何から始めればいいですか?
A. 求人票の欠落チェックからをおすすめします。 企業から預かった求人票に足りない情報を指摘させると、ヒアリング項目がそのまま出てきます。個人情報も含みません。
Q. 書類作成が速くなったら、何をすればいいですか?
A. 面談の時間に回してください。 この職種の価値は、書類に書かれていない情報を引き出す部分にあります。整理が速くなるほど、そこに使える時間が増えます。
まとめ
- 人事は未導入35.4%、効果実感23.5%(下から2番目)。人を扱う業務はAIが効きにくい
- 効くのは情報を整える仕事(求人票の整理、推薦文のたたき台、案件比較、面談メモの整形)
- 見極め・動機づけ・条件交渉は残る。 判断に必要な情報が書類に書かれていないため
- 職務経歴書をそのまま入力しない。 氏名・企業名を伏せた要約を自分で作ってから渡す
- 候補者の評価をAIにさせない。 推薦理由を説明できなくなる
- 書類が速くなった分は、聞き出す時間に回す
企業内の人事の変化は人事の仕事はAIでどう変わる?、営業的な側面は営業職の仕事はAIでどう変わる?にまとめています。
