介護は、AIに仕事を奪われる心配をする分野ではありません。 むしろ逆で、国がテクノロジーの導入を後押ししている側です。
厚生労働省と経済産業省は、介護のどこにテクノロジーを入れるかを 「介護テクノロジー利用の重点分野」 として定めています。2024年6月の改訂で、9分野16項目になりました。
この記事の要点
- 国が定めた重点分野は 9分野16項目。2024年に3分野が追加された
- 目的は「置き換え」ではなく、職員の負担軽減とサービスの質の向上
- 導入は実際に進んでいる(ICT導入支援の補助事業所数が195 → 5,371)
国が「ここに入れる」と決めている分野
まず、そもそもの枠組みです。
厚労省と経産省は2012年から「ロボット技術の介護利用における重点分野」を定めてきました(2014年・2017年に改訂)。そして2024年6月の改訂で、名称を「介護テクノロジー利用の重点分野」に変更しました。
ロボットだけでなく、ICTを含めた「テクノロジー」全体の話になったということです。運用は2025年4月から始まっています。
既存の分野
改訂で定義が見直された分野・項目です。介護の現場で負担が大きいところが、そのまま並んでいます。
| 分野・項目 |
|---|
| 移乗支援(装着) |
| 移乗支援(非装着) |
| 排泄支援(排泄予測・検知) |
| 見守り・コミュニケーション(施設) |
| 見守り・コミュニケーション(在宅) |
| 見守り・コミュニケーション(コミュニケーション) |
| 入浴支援 |
| 介護業務支援 |
2024年に追加された3分野
ここに、課題認識の変化が出ています。
| 追加された分野 |
|---|
| 機能訓練支援 |
| 食事・栄養管理支援 |
| 認知症生活支援・認知症ケア支援 |
移乗・入浴・排泄といった「体を支える」領域から、機能訓練・栄養・認知症ケアという「その人の状態に向き合う」領域へ広がった、という読み方ができます。
改訂の背景として、公式はICT・IoT技術を用いたデータ利活用が進む状況と、介護現場における新たな社会課題を挙げています。
🔍 編集部の本音 「認知症ケア支援」が重点分野に入ったのは大きいと思います。いちばん人の力が要る領域にテクノロジーを入れようとしている。裏を返せば、そこまでしないと現場が回らない、という現実の表れでもあります。
目的は「置き換え」ではない
公式が挙げている目的は3つです。
- 介護サービスの質の向上
- 職員の負担軽減
- 高齢者等の自立支援による生活の質の維持・向上
「人員削減」とは書かれていません。 介護は人手不足が構造的な課題で、テクノロジーは人を減らすためではなく、いまいる人が続けられるようにするために導入されています。
事務職や販売職で語られる「AIに仕事を奪われる」という文脈とは、前提がまったく違います。ほかの職種の状況は職種別AI活用まとめで比較できます。
導入はどれくらい進んでいるのか
厚労省が公開しているICT導入支援事業の効果報告に、補助を受けた事業所の数が出ています。
| 年度 | 補助事業所数 |
|---|---|
| 令和元年度 | 195 |
| 令和2年度 | 2,560 |
| 令和3年度 | 5,371 |
3年で約27倍です。 制度の拡充もあっての数字ですが、現場への導入が急速に進んだことは読み取れます。
支援策としては、厚労省が「介護テクノロジー導入支援事業」「介護テクノロジー定着支援事業」、経産省が「ロボット介護機器開発等推進事業」(医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業)を実施しています。
「導入して終わり」ではなく「定着」まで事業名に入っているのが特徴的です。入れたが使われない、という失敗が現場で起きているということでもあります。
記録と情報共有も対象
機器だけでなく、データ連携も進んでいます。厚労省は、ケアプランデータ連携システムの導入による業務フローの見直しを紹介する資料や、地域におけるデータ連携促進モデルの手引きを公開しています。
事業所をまたいだ情報のやり取りを、紙とFAXから切り替えていくという方向です。
PR・おすすめstrategy career自分らしく働けるエンジニア転職エージェント。公式サイトを見る人に残る役割
テクノロジーが入っても、介護の中心にあるものは動きません。
| 変わりやすい | 人に残る |
|---|---|
| 移乗・入浴・排泄の身体的負担 | その人が何を望んでいるかを読み取ること |
| 記録の作成と転記 | 家族との関係づくり・合意形成 |
| 見守りの常時監視 | 異変に気づいたときの判断 |
| 情報共有の手間 | その場の状況に合わせた対応 |
重点分野の名前をもう一度見てください。 すべて「支援」です。移乗支援、入浴支援、認知症ケア支援。主語は人のままで、テクノロジーはそれを支える側に置かれています。
AIに置き換わりにくい仕事の共通点はAIに奪われない仕事とは?で整理しています。
これから働く人・いま働いている人へ
身につけると効くのは、機器の操作そのものではありません。
- 記録・情報共有のデジタル化に抵抗がないこと。 ここが最も広く入ってくる部分です
- データを見て気づけること。 見守りセンサーの記録から変化を読み取る、といった使い方が増えます
- 新しい機器を現場に定着させる力。 国が「定着支援」を事業にしているほど、ここが難所です
「テクノロジーに詳しい介護職」は、これから確実に重宝されます。 ただし専門知識より、現場に馴染ませる力のほうが求められている、というのが制度の設計から読み取れることです。
基礎から学ぶなら生成AI独学ロードマップ、施設で利用者の情報を扱う場合の注意はAIに社内情報を入れていい?を確認してください。
FAQ
Q. 介護の仕事はAIに奪われますか? A. 国の重点分野は、いずれも「支援」として定義されています。目的も職員の負担軽減とサービスの質の向上であり、置き換えではありません。人手不足が前提の分野です。
Q. 具体的にどこにテクノロジーが入りますか? A. 国が定める9分野16項目です。移乗支援・入浴支援・排泄支援・見守り・介護業務支援に加え、2024年の改訂で機能訓練支援・食事栄養管理支援・認知症ケア支援が追加されました。
Q. 実際に導入は進んでいますか? A. ICT導入支援事業の補助事業所数は、令和元年度195 → 令和2年度2,560 → 令和3年度5,371と増えています。
Q. 機器の操作を覚える必要がありますか? A. 操作自体より、記録のデジタル化に慣れることと、新しい仕組みを現場に定着させる力のほうが重要です。国も「定着支援」を事業として行っています。
Q. 認知症ケアもテクノロジーで対応するのですか? A. 2024年の改訂で「認知症生活支援・認知症ケア支援」が重点分野に追加されました。ただし位置づけはあくまで支援です。
Q. 記録の仕事はなくなりますか? A. 転記や二重入力は減る方向です。ケアプランデータ連携システムなど、事業所間の情報のやり取りをデジタル化する取り組みも進んでいます。
まとめ
- 介護は国がテクノロジー導入を推進している分野。「奪われる」議論とは前提が違う
- 枠組みは 「介護テクノロジー利用の重点分野」9分野16項目(2024年6月改訂・2025年4月運用開始)
- 2024年に機能訓練支援・食事栄養管理支援・認知症ケア支援の3分野が追加
- 目的は質の向上・負担軽減・自立支援。人員削減とは書かれていない
- 導入は進行中(補助事業所数 195 → 5,371)
- 人に残るのは読み取り・判断・関係づくり。分野名がすべて「支援」であることが答え
次に読む:職種別AI活用まとめ/AIに奪われない仕事とは?
※制度・施策は改正されることがあります。最新の情報は厚生労働省でご確認ください。本記事は一般的な整理であり、個別の施設での導入可否や補助金の要件は所管の自治体・窓口にご確認ください。
出典
- 厚生労働省 報道発表資料「『ロボット技術の介護利用における重点分野』を改訂しました」(2026年8月12日確認)
- 厚生労働省「介護テクノロジーの利用促進」(2026年8月12日確認)
最終更新:2026年8月12日/fondantAI編集部
