営業事務は、導入の速度が違う2つの業務にまたがっています。

総務省の白書データで、営業・販売の未導入は20.5%(全業務類型で2番目に低い)。一方、経理・財務の未導入は30.8%。10ポイントの差があります。

営業事務の仕事は、この2つの間にあります。 資料作成や社内外の連絡は営業側の速度で動き、受発注や請求は経理側の慎重さで動く。同じ人が、違う速度の業務を持っているのがこの職種です。

この記事の要点

  • 営業側は未導入20.5%、経理側は30.8%
  • 資料作成では効き、受発注では効きにくい
  • 受発注は照合の補助まで。入力は代行させない

数字で見る現在地

営業事務を単独で取り出した統計はありません。 隣接する2つの業務類型の数値を手がかりにします。

営業・販売経理・財務
業務プロセスがAI中心に変更9.5%9.3%
部署内の特定業務で活用22.9%19.5%
従業員が個人作業の効率化で活用27.2%15.9%
未導入20.5%30.8%
わからない14.9%21.7%
社内に該当業務はない5.0%2.8%
効果を感じる割合37.5%29.7%

差が最も大きいのは「個人作業の効率化での活用」です。 営業・販売は27.2%、経理・財務は15.9%。営業側では個人が勝手に使い始めており、経理側では慎重になっている構図です。

なぜ効き方が逆になるのか

業務の性質が正反対だからです。

資料作成・連絡受発注・請求
求められるもの速さと分かりやすさ正確さ
間違いの影響直せば済む金銭的な損害・信用の毀損
作業の内容頭の中を文章にする数字と品番を転記する
AIの適性高い低い

AIは「文章にする」のが得意で、「転記を間違えない」のは得意ではありません。 品番の一文字、数量の桁、日付——ここは自然な文章の中に紛れ込むと気づけません(ハルシネーションとは?)。

資料作成では効く

業務何をさせるか
提案資料のたたき台営業からの断片的な情報を、構成のある資料にする
議事メモの整形打ち合わせのメモを、共有できる形に
社内外のメール定型連絡の下書き、催促の文面
商品説明・仕様の要約長い仕様書から、顧客向けの説明に
報告の集約複数営業からの報告を、1つの週報に
マニュアル・手順書自分の作業手順を文書化する

この職種で最も効くのは、5番目だと思います。

複数の営業から届く報告の形式がバラバラで、それを整えるのに時間を使っている——という状況は珍しくありません。ここは形式を指定して整形させれば済みます。

以下は営業3名からの週次報告です。次の形式に統一してください。

■形式:担当者 / 案件名 / 進捗 / 次のアクション / 期限
■条件:
- 元の報告にない内容を足さないでください
- 期限が書かれていないものは「未記載」としてください
- 金額と日付は元の表記のまま転記してください

[報告を貼る]

「金額と日付は元の表記のまま」を必ず入れてください。 整形の過程で数値が丸められることを防ぎます。

資料作成そのものの手順はAIで資料を作成する方法にまとめています。

受発注では「照合」までにする

入力そのものをAIに代行させないでください。

理由は単純で、間違いに気づけないからです。 品番が1文字違っても、数量の桁が1つずれても、出力は自然に見えます。

安全な使い方:照合の補助

以下の2つを照合してください。

【A】注文書の内容
【B】システムに入力した内容

- 品番・数量・単価・納期・宛先を項目ごとに突き合わせてください
- 一致しない箇所だけを表で挙げてください
- 判断は不要です。差分の指摘だけしてください

これは「入力させる」のではなく「入力した結果を確認させる」使い方です。 人が入力し、AIが差分を探す。役割が逆になっている点が重要です。

その他の使える場面

  • 注文書の記載内容から、確認すべき点を挙げさせる(納期の記載がない、単価が前回と違う等)
  • 過去のやり取りから、この取引先の特記事項を整理させる
  • 見積書の文面の下書き(金額は人が入れる)
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板挟みへの効き方

営業事務が消耗しやすいのは、速さと正確さの板挟みです。

営業からは「早く出して」、経理や上長からは「間違えるな」。この2つは同時に満たしにくい要求です。

AIが効くのは、速さ側の作業を短縮して、正確さ側に時間を回せるようにすることです。

  • 資料の下書き作成が20分→5分になれば、受発注の確認に15分回せる
  • 報告の整形が自動化されれば、その分を照合に使える

**「全部を速くする」ではなく、「速くていい部分を速くして、慎重にすべき部分に時間を移す」**という考え方になります。

🔍 編集部の本音 営業事務の方から見ると、「AIで効率化」という話はまた仕事が増える予感として響くかもしれません。実際、導入の旗振り役を任されがちな職種でもあります。ただ、この職種ほど「どこを速くしてはいけないか」を知っている人はいません。 受発注は速くしてはいけない。その判断ができる人が入っているかどうかで、導入の成否が変わります。

何を身につけるか

1つ目は、自分の業務を「速さ側」と「正確さ側」に分けることです。 この仕分けができれば、どこにAIを入れるかは自動的に決まります。

2つ目は、確認の手順を文書にすることです。 「受発注で何を突き合わせるか」を言葉にできれば、AIに照合させられます。手順の文書化はAIでマニュアル・手順書を作る方法と同じ考え方です。

3つ目は、出力を疑う習慣です。 特に数値。整形させただけのつもりでも、桁や単位が変わることがあります。

学び方の順序は生成AI独学ロードマップ、他の職種での変化は職種別・AIで変わる仕事まとめにまとめています。

FAQ

Q. 営業事務の仕事はAIでなくなりますか?

A. 業務によって効き方が正反対です。 資料作成や報告の整形はAIが効きますが、受発注や請求は正確性が要求されるため代行させられません。同じ職種のなかで、速くしてよい部分と慎重にすべき部分が同居しています。

Q. 受発注の入力をAIに任せられますか?

A. 入力は任せないでください。 品番や数量の誤りは、自然な出力の中では気づけません。人が入力し、AIに照合させる(差分を指摘させる)使い方が安全です。

Q. 何から始めればいいですか?

A. 複数人から届く報告の整形からをおすすめします。 形式を指定して統一させるだけで時間が浮き、失敗しても取り返せます。

Q. 営業と経理で、AIの使われ方が違うのはなぜですか?

A. 白書データでは、営業・販売の未導入が20.5%、経理・財務が30.8%です。間違いの影響が違うためと考えられます。営業側は直せば済む作業が多く、経理側は金銭的な損害に直結します。

Q. 導入の旗振りを任されました。何から決めればいいですか?

A. 「速くしてはいけない業務」の線引きからです。 受発注・請求・支払いは、時間短縮の対象から外すことを先に決めてください。そのうえで、資料作成や連絡文の作成から始めるのが安全です。

Q. 数値が変わってしまうことがあります。

A. プロンプトに**「金額と日付は元の表記のまま転記してください」「元の情報にない内容を足さないでください」**を入れてください。そのうえで、数値は必ず元の資料と突き合わせてください。

まとめ

  • 営業事務は**営業・販売(未導入20.5%)と経理・財務(未導入30.8%)**にまたがる職種
  • 資料作成では効き、受発注では効きにくい。 求められるものが速さと正確さで逆
  • 受発注は照合の補助まで。 人が入力し、AIが差分を指摘する形にする
  • 複数人からの報告の整形が、この職種で最も効きやすい
  • 考え方は「全部速くする」でなく、速くていい部分を速くして、慎重にすべき部分に時間を移す
  • 速くしてはいけない業務の線引きができる人が、導入の成否を決める

事務職全体の変化は事務職はAIでどう変わる?、営業職側は営業職の仕事はAIでどう変わる?にまとめています。