マニュアルが機能しなくなる原因は、作れないことではありません。直せないことです。
だから、AIで本当に変わるのは初版を書く時間ではなく、改訂のコストのほうです。「手順が1つ変わったから全部書き直し」が数分で終わるようになった。ここが効きます。
そしてもう1つ。属人化を解くのは、操作手順ではなく判断基準です。 ボタンの押し方をいくら丁寧に書いても、「こういうときはどうするか」が書かれていないマニュアルは引き継げません。
この記事の要点
- AIが効くのは初版より改訂
- 書くべきは操作より判断基準
- 例外・つまずき・やらないことをベテランから引き出す
書き始める前に決める3つ
ここを飛ばすと、読まれないマニュアルができます。
| 決めること | 具体的に |
|---|---|
| 読み手は誰か | 入社初日の人か、他部署からの応援か、経験者の確認用か |
| 前提知識はどこまであるか | 業界用語は通じるか、システムのログインは済んでいるか |
| どこからどこまでか | 作業の始まりと終わりを1文で言えるか |
この3つは、AIに決めさせてはいけません。 読み手の想定を間違えたマニュアルは、丁寧に書かれているほど使えなくなります。
特に「前提知識」の設定が要点です。 経験者が書くと、無意識に省略が入ります。AIには「この読み手には何が分からないか」を先に聞くと、省略に気づけます。
作る手順
ステップ1:まず自分の言葉で流れを話す
きれいに書こうとしないでください。 箇条書きでも、話し言葉でも構いません。
経費精算の流れを説明する。
まず領収書を撮影してシステムに上げる。日付と金額と用途を入れる。
上長承認に回る。承認されたら経理に行く。月末締めで翌月15日払い。
交通費だけは別のフォームを使う。
この時点で足りていなくて構いません。 次のステップで埋まります。
ステップ2:AIに「足りない部分」を聞く
いきなり清書させないのがコツです。
以下は社内の経費精算の流れです。
これをマニュアルにする前に、読み手(入社1週間の新人)が
つまずきそうな点と、説明が足りない箇所を10個挙げてください。
まだ本文は書かないでください。
[上のメモを貼る]
AIは「知らないこと」の指摘が得意です。 領収書の宛名は? 上限金額は? 承認者が不在のときは? 却下されたらどうなる?——こうした穴が出てきます。
このリストが、実はマニュアルの骨格になります。
ステップ3:穴を埋めてから清書させる
出てきた指摘に、自分で答えを書き足します。 分からないものは、その場で確認してください。ここが唯一、人にしかできない部分です。
埋め終わったら、清書を頼みます。
以下の情報で、経費精算のマニュアルを作ってください。
■読み手:入社1週間の新人(社内システムのログインは済んでいる)
■構成:概要 → 準備するもの → 手順(番号つき) → 例外と対処 → 困ったときの連絡先
■条件:
- 1手順1動作で書く
- 画面の名称は[ ]で囲む
- 判断が必要な箇所は「〜の場合は」で分岐を明示する
- 推測で埋めない。情報がない部分は「【要確認】」と書く
[穴を埋めたメモを貼る]
「推測で埋めない。情報がない部分は【要確認】と書く」 — この一文を必ず入れてください。入れないと、それらしい手順が創作されます。
ステップ4:実際にその通りやってみる
書いた本人ではなく、できれば別の人に。
詰まった箇所が、そのまま改訂点です。 ここで「言われなくても分かるだろう」と思った部分こそ、属人化の中身になります。
属人化を解くために書くべきもの
手順書と、引き継げるマニュアルの差はここです。
| 書くもの | なぜ必要か |
|---|---|
| 例外とその対処 | 通常フローは誰でも回せる。詰まるのは例外 |
| 判断の基準 | 「金額が大きい場合は」の”大きい”がいくらかを書く |
| つまずきポイント | ベテランが無意識に避けている落とし穴 |
| やらないこと | 過去にやって問題になったこと。禁止の理由込みで |
| 連絡先 | 誰に聞けばいいか。役職でなく役割で書く |
ベテランから引き出す3つの問い
本人は「特別なことはしていない」と言います。 質問を変えると出てきます。
- 「この作業で、想定どおりにいかなかったことは?」(例外が出てくる)
- 「新人がやると、たいてい何で詰まりますか?」(つまずきが出てくる)
- 「やってはいけないことは何ですか? なぜですか?」(禁止事項と理由が出てくる)
この3つの答えを、AIに整理させます。 話し言葉の回答をそのまま渡して、「例外」「注意点」「禁止事項」に分類してもらう形です。
🔍 編集部の本音 マニュアル作成でAIを使うと、たいていきれいな手順書が一瞬でできて、そして使われません。 理由ははっきりしていて、書かれているのが「誰でも分かること」だけだからです。本当に必要なのは、ベテランの頭の中にある「こういうときはこうする」のほう。AIは、それを引き出す質問役として使うほうが価値が出ます。 清書は最後でいい。
AIに任せてはいけない部分
次の内容は、AIの出力をそのまま採用しないでください。
- 安全に関わる手順(機械の操作、薬品、食品衛生など)
- 法令・資格が絡む手順(届出、記録の保存期間、有資格者しかできない作業)
- 社内規程に基づく判断(承認権限、金額の閾値、稟議の要否)
- 例外時の最終判断(「困ったら止めて誰に聞くか」は人が決める)
- 社内固有の理由(なぜこの順番なのか、という背景は社外の情報からは出てこない)
AIは、一般的にありそうな手順を埋めることができます。 それが自社の規程と食い違っていても、文章としては自然に見えます。規程・法令に関わる部分は、必ず原典と突き合わせてください。 仕組みはハルシネーションとは?で解説しています。
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ここまで作ったものは、作った日がいちばん新しい状態です。 そのあとが本題になります。
更新のトリガーを決めておきます。
| トリガー | 誰が |
|---|---|
| システムや画面が変わったとき | 気づいた人が該当箇所だけ直す |
| 例外が起きたとき | 対応した人が「例外と対処」に1行足す |
| 新人が詰まったとき | 教えた人がその場で追記する |
| 半年に1回 | 担当者が通しで確認する |
AIが効くのはここです。 変更点を伝えるだけで、影響する箇所をまとめて直せます。
以下のマニュアルについて、変更が1つあります。
「上長承認」が「部門長承認(5万円以上は本部長も)」に変わりました。
影響する箇所をすべて洗い出し、修正版を出してください。
変更していない部分は変えないでください。
[現行のマニュアルを貼る]
「変更していない部分は変えないでください」を入れてください。 入れないと、関係ない箇所の言い回しまで整えられて、差分が追えなくなります。
注意しておくこと
- 社内情報をAIに入力する前に、扱いのルールを確認してください。 学習に使われない設定にできるかどうかは各社で違います。社内情報を学習させない設定で扱っています
- 個人名・取引先名・顧客情報は、伏せてから渡すのが基本です。役割名(承認者、担当者)に置き換えれば手順は成立します
- 画面のスクリーンショットは、AIに作らせることはできません。 撮影は人の作業として残ります
- 完成させようとしないこと。 【要確認】が残ったまま公開して、使いながら埋めていくほうが早く回ります
FAQ
Q. AIにマニュアルを丸ごと書かせられますか?
A. 形式は作れますが、中身は埋まりません。 社内固有の例外・判断基準・禁止事項は、社外の情報から出てこないためです。AIは「足りない箇所を指摘する役」と「清書する役」に使い、中身は人が埋めるのが現実的です。
Q. どのAIを使えばいいですか?
A. この作業に特別な機能は要りません。 普段使っているもので足ります。長いマニュアルを継続的に扱うなら、会話をまとめて置ける機能(プロジェクトやノートブック)があると改訂が楽になります。
Q. 手順書とマニュアルは違いますか?
A. この記事では、操作を並べたものが手順書、判断基準と例外まで含めたものがマニュアルとして扱っています。引き継ぎで問題になるのは後者です。
Q. ベテランが協力してくれません。
A. 「マニュアルを作るので教えてください」と頼むと構えられます。**「新人がここで詰まったのですが、どうしていますか」**と、実際に起きた具体的な場面から聞くほうが答えが出てきます。
Q. 作ったマニュアルが読まれません。
A. 読み手の想定がずれている可能性があります。通常フローだけが書かれていて、詰まったときの答えが載っていないマニュアルは参照されません。「例外と対処」を先頭近くに置くだけでも変わります。
まとめ
- AIが効くのは初版より改訂。 変更を伝えれば影響箇所をまとめて直せる
- いきなり清書させず、まず「足りない箇所」を挙げさせる。 その指摘が骨格になる
- **「推測で埋めない。情報がない部分は【要確認】と書く」**をプロンプトに入れる
- 属人化を解くのは操作でなく判断基準。 例外・つまずき・やらないことを引き出す
- 安全・法令・社内規程に関わる部分は、必ず原典と突き合わせる
- 更新のトリガーを決める。 決めなければ、作った日がいちばん新しい状態になる
会議の記録から手順を起こす場合はAIで議事録を作る方法、指示の出し方の基本はプロンプトの基本にあります。事務・総務での使いどころは事務職はAIでどう変わる?と総務はAIでどう変わる?で扱っています。
